わかっている、頭では。


 そのはずなのに。

 混乱してしまう。
 直接、声を聞いてしまうと。












 座っている、私はベンチに。

 そして。
 出していない、私は声を。


 それなのに。
 私の声が別の方から聞こえ。
 その声で私の名前を呼んでいる。










 それもそうなのだ。



 今、入れ替わってしまっている。
 私と龍輝くんは。

 だから。
 私は私でも私じゃない。

 今の私は龍輝くんの姿。


 なので。
 当然、広がっていく。

 発する、私が声を。

 そうすると。
 伝わる、空気を。
 龍輝くんの声が。





 それは。
 言える、同じことが。
 龍輝くんにも。


 発する、龍輝くんが声を。

 そうすると。
 私の声になる。



 それは。
 理解している、頭では。







 だけど。
 やっぱり割り切れないこともある。
 頭の中だけでは。





 聞こえてくる、別の方から。
 自分の声が。



 それは。
 溜まっていく、モヤモヤと。

 何とも言えない気持ち。
 それが心の中に。


 まるで濃厚な霧のように……。















 だけど。
 いかない、見ないわけには。
 声がした方を。


 そんなことをしたら。
 なってしまう、無視していることに。

 もちろん無視したいわけではない。



 だから。
 見るしかない。
 勇気を出して。

 そして。
 見てみる、そっと。
 声がした方を―――。