「あっくんが茉蕗(まろん)ちゃんに惚れるの、わかるぅ。
 茉蕗ちゃん、めちゃくちゃ可愛いもんね」


 驚いた、ものすごく。
 海翔さんの言葉に。


『めちゃくちゃ可愛い』

 他人(ひと)様からそういうふうに思ってもらい言ってもらえるなんて。



 慣れない。

 言ってもらう、褒め言葉を。
 他人(ひと)様から。
 そういうことは。


 それだからだろう。
 混乱してきた、頭の中が。


「あっくんはイイ男だよ。
 男が惚れる男って感じ。
 あっくんの彼女になったら
 茉蕗ちゃんは幸せになれるよ」


 海翔さんの言葉に照れたのか。
 言った、北邑(きたむら)さんは。
 静かな声で。
「余計なことを言わなくていい」と。

 北邑さんの言葉に。
 にんまりとしている、海翔さんは。
「あっくん、照れちゃって可愛い~」と言って。

 そんな海翔さんに。
 言った、北邑さんは。
「お前は向こうに行け」と。

 そうしたら。
 海翔さんは言った。
 にんまりとした表情(かお)のまま。
 「茉蕗ちゃんと二人がいいんだよね」と。


 そうして。
 海翔さんは立ち上がり。
 私と北邑さんのところから離れようと―――。





“ガチャッ”


 離れかけた、海翔さんが。
 私と北邑さんのところから。

 そのとき。
 ドアが開いた音がした。


「来たね、いよいよ」


 その音に気付いた海翔さん。
 している、ニヤリと。



 いよいよ来た、って。

 いったい誰が来たのだろう。


 そう思った。

 だけど。
 気付いた、すぐに。