『ウソ、だ…。』

洋館に響き渡るハモった2つの声。その声は絶望と驚きが隠しきれていなかった。

ー遡ること、約5時間以上前ーーーーーーー

「行ってくるね〜♪」

「…行ってきます。」

俺、"レティナ・アクリス"と兄の"レティナ・ファメル"は時間を共に過ごしてした双子だ。

今日も、双子特有の似た声をハモらせて中等部学園"cipher"へ向かっている。

でも、正直学校なんてつまらない。

(…だって、学ぶことが無いから。)

それは俺達が広い家の部屋を、全部見てみようと探索した結果、図書室を見つけたからだ。

「ねぇ、スゴイぞ!ファメ!」

「ホントだ!見たことない物ばっかり!」

そのおかげで俺達は小さい頃から本や図鑑を読み漁り、知識を溜め込んだ。

つまり、学校で習ったことは全てだいぶ前にもう分かっているもの。

(そんなの行く価値すらない。)

でも父さんと母さんは行かなければいけないんだよ。と諭すから、渋々通っている。

だけど、その日は後悔した。そんなもん行かなければ良かったと。

「トゥルルルル、トゥルル…」

それは、授業の5時間目だった。

電話を取った先生は、俺達に青ざめながら事態を報告しだした。

「あなた達のご家族が学校に電話をかけたのだけれど…。」

「何か言おうとしたっきり、プツッと音が何一つ聞こえなくなったの。」

「…は?」

あまりに唐突な話に、俺の頭は回ってはくれない。

そりゃ、そうだ。

先生だって、今はパニックなだけで普通は生徒を不安にはさせないはずだから。

_だけれど、ファメルは、兄は異次元だ。

状況を理解した後、嵐のように足を走らせる。

「ねぇ、早く家に行くよっ!」 

「…!?」

腕をギリリッと掴まれ、俺は引っ張られるようにして走り出す。

だだ、今は授業中。廊下をダッシュする俺達を、皆は怪訝そうに見つめる。

「まっ、待ちなさい!」

(待ってられるかよ…!)

背後から息を切らして追ってくる先生にたいして、頭が回り始めた俺はスピードを上げてゆく。

「アクっ!もう、早いってば!」

兄のファメル…略してファメはそんな俺に追いつけず、さっきの逆のように引きずられていく。

そう、双子と言っても全て同じじゃなくて、俺はファメより運動能力が遥かに高い。

一方、ファメはさっきのように頭のキレがよく、人の心を読む心理学が得意だ。

ガチャンッ

学校の外の重く大きな扉を開け、俺は家への道を走りに走る。

(母さん、父さん…大丈夫なのか?)

俺等は"3人家族"だから、両親がなにかあったらもう残る人はファメしかいない。

(そう、ファメしかいないんだ_。)

ドクンッ

唐突に不安に駆られて、制服のネクタイを跡がつくくらい、クシャシャに握りしめる。

(それだけは、絶対に嫌だ。)

「アク。不安な時の心理行動が完全に出てちゃってるよ?」

「そんなこと、無い。」

ファメにそんな気持ちは悟られたくなくて、咄嗟に誤魔化す。

でも、そんな不安に駆られている暇は無いんだ。

『はぁ…着いた。』

夕日に赤く照らされた洋館。

いつも通り、何も変わってないのに勝手に足がすくんでしまう。

(さっきのことを考えてしまったからだろうか。)

「入ろ?じゃなきゃ、何も分かんない。」

そんな俺をサラッと追い越し、ギィッと音を立ててファメは先に入っていく。

(はぁ…?何なんだよ。)

言われなくても、入ってやる。俺は無理やり動かして家へと足を踏み入れた。