悪目立ちだけは避けておかなければ。
…と言っても参加する芸能人のようにドレスやヘアセットなんて華やかにすることはなく普通のスーツ。
せっかくだから参加した様子をまた記事にするように、と指示されているので、仕事として知らない世界を少し覗きにいかせてもらう気分だ。
楽しんでくるのよ、
と優しい笑顔で送り出してくれた小百合さんに
頭を下げてホールから下がる。直接現場に行けるように持ってきておいたスーツにスタッフルームで着替えた。
メールにて送られてきた今日の詳細。
地下鉄を乗り継ぎながらそこに記載されていた都内のホテルへ向かう。
宿泊者と思われる大きなキャリーケースを持った人が出入りするのをぼんやり見つめながら、
待ち合わせ場所に指定された位置で待っていれば。
少し遅れて私の教育係の先輩:笹村さんが現れた。
「おつかれ!ごめん、遅れて」
片手でごめん、と仕草をしながら近寄ってきた笹村さんに笑顔で首を振る。
「大丈夫です、私が早く来すぎてしまっていたので」
「始まる前から戦いは始まってるからなー、はぁ」
めったにこんな場に足を踏み入れることはないので、少し緊張と楽しみが混じっている私とは反対に、笹村さんは気怠げだ。
笹村さんはこういう集まりに慣れているのだろう。
聞けばこう言うところで顔見知りやパイプを作り次の企画や出演を依頼し売り込んでいくのだそうだ。
人脈から大きな仕事に繋がる大事な営業の1つだと言いながら、足を進めて行く。
それを横で相槌を打ちながら聞きつつ、
のんびり依頼された仕事だけこなしている私と違いすぎて尊敬するなぁ、と思う。
結婚式や音楽祭の会場にも使われる大きな宴会場。
アフタヌーンティーも有名でSNSでもよく見かける。
会場に入り、メディアの方々用に通されたゾーンで撮影許可されている内装を数枚写真で撮りながら、端っこで室内を見渡す。
参加者の芸能人が揃えば入り乱れるから今から誰に行くのか、ポジション取りが大事だなんだと
私に言っているのか自分に言い聞かせているのか
横から笹村さんの声が聞こえとりあえず頷く。
私は芸能人に声をかけに行くことはないのでここから動くことはなさそう。
邪魔にならないように大人しくしておこうと思う。