思わず耳を疑う。

え?今、最悪って言った…?
一瞬私の顔を見ただけだよね?
まだ名前を言っただけで、気に障るようなことも言っていない。
どういうこと?

パニック状態の脳内に、今朝聞いた学園長の話が浮かぶ。
確か、ペアのトレードは可能だと言っていた。

いやでも、入学初日でトレードなんてありえない!

どうしようどうしようどうし…

"ガチャ…"

再びドアが開く。
先ほどの彼が再び部屋の中へ入り、顔をそむけたまま言う。

「いやその…ごめん、いきなり。俺もちょっとびっくりして…」
視線を右下の方に落とし、左手で頭をかきながら話を続ける。
「えっと……俺は、杉崎優麻。よろしく…」

どうしてこちらを見ないのだろう。
不思議に思いながらも、彼の言葉の続きを待った。

「ごめん……俺、君の顔が見れないかもしれない。
 でもゴールデンカップルになれるよう努力はするから…」

「え?」

さっきから頭の中には疑問が増えていく一方だ。

「顔が見れないって?どういうこと?」
「えーっと、その…またいつか事情は説明するから。
 とりあえず、しばらくは目を合わさない方向で…」
「いやいや、ちょっと待ってよ!
 私も詳しくは分からないけど、これから色々とペアでの試験があるんでしょ!?
 相手の顔が見れないんじゃ無理だと思うけど?」
「なるべく努力はする……」
「努力って…」

途方に暮れてしまった。
そんなに私の顔が気に入らなかったのだろうか?
散々研究に研究を重ねて作り上げたメイクなのに…。

訳が分からないけれど、やっぱり初日からトレードなんてありえない。
とりあえず、やってみるしかない…か。

「杉崎君…だよね。よろしくね」
「よろしく…」
視線を外したままそう言った彼は、自分のベッドの方へ歩いて行った。



あぁ、初日からなんてことだろう。
運命の相手に一瞬で拒絶されてしまうなんて…
デステニーとかいうマッチングシステムは本当に信用できるのだろうか?

その日はそれ以上言葉を交わさないまま眠りについた。