―――夜―――

「うん。味付けは薄すぎず濃すぎずクセがなく…無難に仕上がったはず!」
私は、部屋に備え付けのキッチンで料理をしていた。
自分磨きの一環として努力し、一応一通りの家事は卒なくこなせる。
結婚するのであれば、相手から見て生活能力は重要なポイントだと思ったから。

杉崎君は、夜までクラスメイトの部屋でゲームをすると言っていた。
ご飯を用意しておくことは伝えてあるから、そのつもりで戻ってくるだろう。

とても悩んだけれど、もう決めた。
たとえ私の顔を見てもらえなくても、距離を縮めることは出来るかもしれない。
少しでも彼のことを知りたい。私のことを知ってほしい。
最悪トレードも考えたけど…とりあえず、やれるだけのことはやってみよう。

ちょうどテーブルに料理を並べ終えた頃、ドアが開き、杉崎君が戻ってきた。
「ただいま」
「おかえりなさい!ちょうと出来たところだよ!」
「あぁ…ありがとう」
テーブルの上に並べられた料理を見ながら、杉崎君はお礼を言ってくれた。
「お腹すいてる?もう食べれる?」
「うん。ゲーム中はお菓子も食べないようにしてたし、お腹すいた」
「良かった!食べよう!」

ただ一点、彼が私の顔を見てくれない点を除けば、普通にコミュニケーションは取れた。