「甘いんだよ…。何もかも。もしお前が、あの時の俺の親友のままの冷血な男だったら、あの方の命とはいえ、命までは奪わなかったものをなぁ」


ケケッと下品に笑うさまに、無性に腹が立つ。

…だが、こんな奴に熱くなってもなるだけ無駄だ。


「…お前、俺と本気で戦って勝てるとでも思ってるのか?」


怒りを抑え、冷静なフリをする。そうだ、今までだって、こうして来たじゃないか。

そう。何度も何度も、父の悪行にも、感情を抑えて、目を瞑ってきた。


「当たり前だろ?生まれながら戦場にいた俺と、おめぇの様なお坊っちゃんじゃ、俺の方が勝つに決まってんだろ。ましては王族となっては…」


「その話、こいつの前でしてみろ。…その命、無いと思え」


アイルが意識を失っていて、本当に良かった。

こんな話を聞いたら、あいつはどう思うだろうか。

俺の正体が、元とはいえ…あいつの村を襲うよう命じた、男の息子だなんて。

優しいあいつのことだから、『クロはクロでしょ』とか言いそうだ。


…だけど。


だけど、まだ知られてはいけない。



まだ……。せめて、このことにカタをつけてから。