「え」
私が声を出した時は遅かった。
「ブワンっ」
−犬がよだれを垂らしながら私の方へ一直線に走ってくる。
気づくと、私は全力で逃げていた。
小学生ではマラソン上位に入っていたし、中学生では部活ですごく体を鍛えていたから、速さには自信がある。
後ろをチラッと見ると、犬はまだ追いかけてくる。
理科室を越えて、どこへ逃げればいいのかわからなくなったとき、階段を見つけたので、必死に一段とばしに登る。
犬は来なくなった。
ふぅーっと私は安心して、地面に座り込む。
「こ、こわかったあ」
犬と私だけの廊下に、私の声が響く。
「ちょっと!?だめだよナツくん。」
緑さんは犬に叱る。
犬はナツという名前なのか。今知った。
犬にも「くん」をつけるかわいらしい緑さんに、少し笑ってしまった。
「ワンッ」
ナツは何事もなかったかのように、大人しく動かない。
「ナツ……私と名前似てる」
ポツリと声に出していた。
「あ、あ!すみません何でもない、です」
私は慌てて前言撤回したけど、緑さんは、笑い出した。
「それ思ったの!!だから、いい名前だねって」
私と緑さんでふふっと笑い合った。少し嬉しかった。


