おかえりの言葉(短編・完結)

健人一人を憎むのが忍びなくて、信弘の事も哀れな子という目でしか見なくなった。
 

信弘は帰ってきた自分に「おかえり」とは言わない。


それはまたいなくなると知っていたからだ。
 

目の前にいる父親が本当に帰ってくる事はないと思っているからに違いない。


信弘を苦しめていたのは健人ではなく、自分だったのではないだろうか。
 

健人が死んでから、信弘を心の底から愛して抱きしめた事はなかった。


『しかたがない』という気持ちがいつもあった。
 

信弘はこんなだからしかたがない。