おかえりの言葉(短編・完結)

妻はあのつらい日を忘れられずにいる。


自分もそうだ。


抱き上げた妻は軽かった。


あの頃の柔らかくふくよかだった体つきはなくなってしまっている。


完全に乗り越える事はムリでも彼女はそれをしっかりと背負って生きている。


自分とは大違いだ。


信弘は重そうなまぶたでみかんを頬張っている。

きっと眠ってしまうだろう。


眠るように気を失って、再び立ち上がろうとするだろう。