おかえりの言葉(短編・完結)

「ハニーは怖がりさんだね」
 

目の前でイチャつかないで欲しい。


「鍋の出し方教えてあげてよ」


「鍋だけ分かってもしかたないよ」
 

父がそういうので思い出した。


母が怯えるのは鍋の落ちる音だけじゃない。


大きな音なら何にでもこうなのだ。
 

近所の工場の機械音、車のクラクション。


母とよく出かけていた頃はいつも、立ち尽くす彼女を一生懸命励ましていた。
 

買い物に行く母の帰りがいつも遅いのは、立ち話につかまったとかではないのかもしれない。