おかえりの言葉(短編・完結)

「そんなに驚いてて、よく今まで心臓とまらなかったね」
 

しばらくは何も喋れないだろう。
 

こんな風になっている母を見るたびに思う。


彼女が見ているのは本当に鍋なのだろうか。


狂犬とか妖怪ではないのだろうか。


妖怪なら、どんな形をしているのだろう。
 

鍋に身体を生えさせたり牙をつけてみても、ちっとも怖くなかった。


むしろ「よう」と手を上げて挨拶してきそうな勢いだ。