教室に入ると男子生徒が惚けたようにカテリーナの名前を口にしていた。
 どうやら剣術の授業の後片付けで、うっかり指を切って血が出ていた男子生徒を、たまたま通りかかったカテリーナが、心配してハンカチを巻いてくれたのだそうだ。


 良い香りがしただの、顔も声も美しいだの、優しさに胸が熱くなっただのと言っている。


「おい、それは恋か?」

 男子生徒に素直に聞いてみた。威圧ではない。

「ひぃ……殿下っ!」

「怒らないから、教えてくれ、お前のその気持ちは恋か?」


 困った顔の男子生徒は、恐れながらも

「……はい、恋をしました」と言った。


 そうかそれなら私のカテリーナに対するこの感情は恋と言うものかもしれない……


 婚約者候補……などぬるいものではなく婚約者として発表しても良いのかもしれない。あれ? 元だったか……?


 来週のカテリーナのデビュタントは隣に居たい……令息を可愛いカテリーナに近づけたくない、そう思い手紙を出した。