お嬢様と殿下の婚約が発表されました。それからしばらくして話があると言われます。

 改まってどうしたのでしょうか……?


「ノーマンさえ良ければブラッドの執事になっていいからね」

 突然お嬢様がそんな事を口に出しました。

「何の話ですか? どうして私がブラッド様に?」


 急に変な事を言い出すので、内心では焦ってしまう。とうとう嫌われてしまったのか……? それなら死んだ方がマシだ。


「子供の頃、約束、したでしょ、ずっと一緒だって」

 恥ずかしそうに下を向くお嬢様なんだかモジモジしていていつもと様子が違う。

「はい。お約束いたしました」

「忘れて、いいから。ノーマンの人生はノーマンのものだから、侯爵家の為を思うならブラッドに仕えて欲しいの」

 はっ? 何を言ってるんだ……私のお嬢様は。


「話はそれだけ、私からお母様に言っておくから、また執事長に聞いて」

「勝手に話を進めないでください! 私の主は生涯貴女だけです。約束と違いますよ、お嬢様」


「小さい子の戯言だったの、ごめんなさい、ノーマンを縛りたくないの」

「私は私の信念の元、貴女に仕えているんだ。戯言なんかではない! 貴女が私の主です」


「私、いつかこの邸から出て行くよ?」

「婚家にも行きますよ? 何言ってんだ?」

「執事長と離れることになるよ? 家族なのに」

「お嬢様を一人でやるわけには行かない、お嬢様に付き合えるのは私くらいだ……」

「結婚しないの? モテるんでしょう」

「……昔、ある人に結婚してくれと言われ断ったので、生涯結婚しないと決めています」

「そっか……それならノーマンの最期を看取ってあげる」


「約束ですよ、我が主」


 頭にポンと手をやったら、下を向いたお嬢様が涙を流していた。優しい主で私は幸せ者だ。