君から声がかかる前に

それから数日。

僕はおかしくなったのかもしれない。

優弓の机の上にある花を見るのが苦しい。

もう二度と会えないのが辛い。

気づいたら僕は、学校の屋上の柵の外にいた。

鍵の施錠が全て終わる頃の時間帯。

外は真っ暗。

見えるのは、ポケットに入っていたスマホの光で見える範囲内と、空で瞬く星。

僕は無意識にここまで来て、時間を潰し、柵を乗り越えたらしい。

「……なんでこんなことしてるんだろ」

柵の中に戻ろうと運動場の方に背を向けたとき、ゴウッと音を立てて強い風が吹いた。