君から声がかかる前に

「椿、私ね、少し離れた家に引っ越すんだ……お母さんとお父さん、離婚して……」

部活が終わってからの、夕焼け空の帰り道。

赤とんぼが優雅に舞う景色の中で伝えられたその言葉。

「そっ、か。どこら辺?」

「今の家から五、六軒くらい離れた、一階建ての一軒家」

「なんだ、そんな遠くないじゃん」

少し寂しい。

この近さでそんなこと言ったら本当に離れる時に困るだろうな。

そう思うあの頃の気持ちは、今と同じだった。

「学校、一緒に登下校してくれる?」

「うん。遅かったら迎えに行くね」

「ふふっありがと」

僕たちは手を振って、隣同士の家に帰った。