君から声がかかる前に

僕らは手を振りあって、教室の前後に別れて歩いた。

僕は、職員室前のクラスボックスに置いてあるであろう返却用の提出物を取りに行くという仕事があるのだ。

僕は何故か窓が一つもない階段を降りて、職員室前に向かう。

でもクラスボックスには、 返却物はひとつもなかった。

教室に戻ろうと回れ右をすると、「椿、これ持って行ってくれ」と、職員室から化学の教科担任が出てきて言った。

先生の手には「再提出」と書かれた咲の学習ワークが一冊、握られていた。

またか、と思ってよくよく見ると「再提出」の上から「済」の印が押してあった。