君の見ていた空


 ボクは、薄々気が付いていたけど、知らない振りをしていた事実を先代組長に言われたんだ。

 ……お母さんは、いつでも警戒していたし、ボクの事を死ぬ気で守ってくれていた。あの時だって、お母さんは笑っていたんだ。死ぬ瞬間だって、ボクに好きに生きろと言った。ボクは、この世界から抜け出そうと思えば抜け出せた。……だけど、ボクはこの思い出の詰まった家から抜け出す気にはなれなかったのだ。

 先代組長は、続けてこう言ってきた。

 「私は、この類いの話を何度も側近からされていた。少しは本妻を愛する努力をしろ、もう、本妻のお腹の子を殺そうとするな、折角産まれてきた子どもなんだから、少しは顔を見に行け、本妻の御子息が殺しと拷問を仕込まれている、そんな早いうちからやる必要は無いと言え、本妻が子どもの首を締めるなんて非常事態だ、本妻は今でも私が子どもを殺そうと思っている筈だから、その必要はないと言え、本妻が死んだ、御子息が殺しと拷問を辞めない、御子息と話をしろ、私はその全てを聞き流した。……その結果が今だ。……竜胆、どうして、11歳の子どもが大人を簡単に殺しにかかれるんだろうな?竜胆が逃げも隠れもせずに刀を抜いているこの光景を見て、私は殺されると確信している。……こんな事をさせたのは全て私が悪いんだよな。……今になってやっと気が付いたよ、竜胆。……もう、家族殺しは私を最期にしてはくれないかい?竜胆がこれ以上、血縁者を殺す必要はないし、獄門組だって、もう好きにして良い。私の側近達は、獄門組の事は全て竜胆、君に任せるべきだと言っている。勿論、表立っては言わない。だけど、獄門組はもう、竜胆、君の物だ。……多分、この組の人間達は、龍道が次期組長候補だと言われていても、一生若頭止まりだと確信している。……竜胆、君が1番獄門組の中で血に染まっているんだ」