幸せになりたい人

私は彼に懺悔の機会を与えませんでした。
それは罪を許さないというためではなかったことを私だけが知っています。
彼の罪など私の罪に比べたらなんと小さなことなのでしょう。
その事実を私だけが知っています。

それでも、彼の幸せを心から望んでいます。
そんなことはおかしく聞こえることでしょうけれども。

矛盾があるということに気づかないはずなどありません。
ただの気まぐれなのだといえば、その通りかもしれません。

彼が懺悔をすることは、私の断罪に等しいことなのです。
ですが、私はそれを恐れているわけではありません。
そんなことに恐怖はないのです。

私は自分の犯した罪の許しを請うなどできない人間です。
心の穢れは決して拭えることはないでしょう。
過ちを犯し過ちに飲まれ、私は上辺の平穏なるものに浸り
安い満足感で生活しております。
私は私を許しません。
決して許しはしません。
誰にも許しを得たくはありません。
人に哀れんでもらえる人間でもありません。
私は私自身の幸せを望みません。

懺悔などしたくはありません。
許されてしまうことが私の恐怖なのです。

ましてや、人の懺悔を聞くなど何をもが決して許しはしないでしょう。
それは彼の罪を許さないということではないことを、私だけが知っています。