「お待たせした。」

・・・太い声・・・電話の声だ。

思わず私は立ち上がった。

電動の車椅子を自分で動かして老人がこちらに向かって来る。

・・・お爺様だ・・・

そして後ろからは妙子さんが車椅子を押してきた。そこには上品に着物をお召の老女が座っている。

・・・お婆様だ・・・

二人はテーブルの椅子が無い部分に車椅子を止めた。

慌てて挨拶をした。

「あの、雄二の娘の楓です。初めまして。」

思わず初めましてと言ってしまった。
お婆様がにこやかに言った。

「そうね、初めましてよね。昔会った時はまだあなたは3つくらいだったかしら。」

「すみません。覚えておりませんで。」

「いいのよ、仕方ありません。お座りになって。」

私は椅子に座り、背筋を伸ばした。


お爺様が太い声で言った。

「この間、雄二の死去を知らせてくれたのは楓さんか? 」

「はい、私です。母は介護で倒れてしまい、父が死去したときは既に入院しておりましたので、私が連絡させていただきました。」

「そうか、それは悪かった。雄二の死を聞いて動揺してしまい、きついことを言ってしまったかもしれない。」

「いえ、当然のことです。」

「それで、雄二は何で亡くなったんだ。」

「脳梗塞です。3年前に倒れ、母はずっと介護をしておりました。」

お婆様は目を赤くして、少し涙声で私に尋ねた。

「そうですか3年も前に倒れたの・・・そしてずっと介護を・・・そうでしたか・・・。それでお母様の具合はいかがなの? 」

「はい。母は元々心臓が弱かったのであまりよくありません。今後も入院生活が続くと思います。」

「楓さんは御弟妹いないわよね。ご結婚は? 」

「いえ、まだです。」

「では、お一人で苦労されているのね。それでお仕事はされているの? 」

「母が倒れて父の面倒を私が見なくてはいけなくなりましたので、その時点で仕事は辞めました。今は無職です。たまにパートで働くこともありますが。」

「そうですか・・・」


お爺様は表情を変えずに語った。

「それで、相談ということだが・・・」

「はい、お願いがあり参りました。父の遺骨を三崎家の墓に納めさせていただけないでしょうか。」

お爺様は黙って私の顔を凝視した。見透かされているようで怖かった。

お婆様がお爺様の袖を引っ張りうなずいている。

少し間がありお爺様が一度目を閉じた。

「わかった、納骨を許す。雄二はこの家を出ていった身だ。この家の敷居をまたがせないつもりだった。だから納骨も本来なら許さないところだが、楓さんに免じて許す。」

「ありがとうございます。」

私は心からの感謝と共に頭を下げた。

お婆様は優しい笑顔で言った。

「楓さん、あなたは可愛い私達の孫ですよ。雄二とはこんな別れになってしまいましたが、あなたはこんなに素敵なお嬢さんになられて・・・雄二にも少し似ているわ。・・・これからは頼ってくださいね。」

「ありがとうございます。お爺様、お婆様。」


夕食を食べていくように誘われた。