空を見上げていると肩をぐっと抱いてくれる人が横にいた。
その手は暖かく・・・生きていた。

「直哉さん・・・」

「僕が楓さんを守るから・・・兄貴の代わりになるから・・・」

「直哉さん・・・」

その後私は気を失った。



目覚めたのは次の日だった。坂口家にいた。
お義母様が障子を開けて部屋に入ってきた。

「お義母様、すみません。私・・・」

「疲れたのよ、仕方ありません。直哉が運んでくれました。」

「あの、直哉さんは・・・」

「仕事があると東京に戻りました。」

「そうですか・・・ご迷惑をおかけしてしまいました。」

お義母様はいつもと違い厳しい顔をしていた。

「あとで三崎家に行ってきたいのですが・・・」

「そうですね。お通夜にも告別式にもいらしてくださったからご挨拶していらっしゃい。」

「はい。」


久しぶりに三崎家に行った。
雄一伯父さんが出迎えてくれた。

「楓さん、大丈夫か?」

「はい。」

「全くあんなに元気そうだった正志君がこんなことになるなんて・・・」

「簡単ではないだろうが、元気出すんだよ。」

「ありがとうございます。あの、お爺様お婆様にお線香をあげさせていただいてもいいですか。」

「どうぞ・・・お爺様もお婆様も生きていなくてよかった。どれほど悲しむか・・・」

私と正志さんの結婚を喜んでくださったお爺様の笑顔と、私を気遣ってくれたやさしいお婆様を思い出した。
仏壇の前で声を殺して泣いた。



「妙子さんはお元気ですか?」

「元気だよ、子供が出来て来月戻って来る。こっちで産むことになった。」

「それは良かったですね。」

うらやましかった。正志さんとの間には子供が出来なかった。


・・・子供だけでもいればこれから生きていけたのに・・・


正志さんも妙子さんと結婚していれば子供が出来て幸せだったのかもしれない・・・


・・・私は何だったのだろう・・・正志に何もしてあげられなかった・・・

気持ちがふさいだ。



携帯を見るのを忘れていた。直哉さんから連絡が入っていた。

—仕事があるので先に東京に戻ります。ゆっくり養生してから戻ってきてください。
—家に帰ったら連絡ください。

私は返信をしなかった。これから直哉さんとはどうすればいいのだろう。考えはまとまらなかった。



次の日、東京に戻ると言って坂口家を出た。

・・・やっぱり直哉さんに会いたい・・・


柳の葉が私を殴るように顔に当たる。お構いなしに駅まで走った。