高校2年生の夏。

朝6時。

俺はいつもと同じようにパソコンの前に座り、チャットサイトを開いた。



「……お、ユキしか居ないじゃん」



いつものチャットサイトの『高校生ルーム8』を開いて、小さく笑う。


毎日色々な人とチャットで話してると、当然「顔馴染み(名馴染み?)」も出てくる。

そのうちの一人が「ユキ」だ。


俺と同い年だということで仲良くなり、『高校生ルーム8』で色々な話をしてきた。

ユキとは話が合うし、ノリも合う。

俺がボケると即座にツッコミを入れてきて、それを見てた周りの奴らが大笑いするのを見て、俺もユキも笑う。

そういう時間がすげー楽しくて、心地よくて。

チャットルームにユキの名前があると途端に嬉しくなって、同名の別人だとわかるとビックリするくらいに落ち込む。

だから自分でも気づいてた。


俺はユキが好きなんだ、って。

会ったこともない相手のことを好きになるなんて思ってもいなかったけど。

でも、好きになったんだ。

会ってみたいな、って本気で思ってた。

チャットで話すだけじゃなくて、ちゃんとリアルで会いたい。

その思いが日に日に募ってた。


だけど……何も出来ずに居た。

「今」の楽しい時間が終わってしまうのが、怖くて動けなかった。