「…本当は、5本あげたかったんだ」

啓吾くんが、口を開いた。

5本…?

少し考えて、そういえば啓吾くんが見つけたバラの本数は4本だったと思い出した。


「どうして5本……あ」

言うと同時に、昨日見たサイトを思い出した。


5本のバラの意味。


いいの?

今、すっごい都合の良い解釈しちゃってるけど。


啓吾くんは、身体の後ろから私に渡していない3本のバラを取り出してきた。

他の女の子にあげたはずの、バラを。


「私の合わせたら、5本だよ」

そう言って、両手に1本ずつ持っていたバラを、両方啓吾くんに渡した。

しばらく5本のバラを見つめた後、それを1つの花束にする。


「俺、小さい頃からずっと、女の子が周りにいて。なんの違和感もなかったし、女の子好きだし。平気だったんだよね」

啓吾くんが、自分のことを話し始めた。

初めて触れる、啓吾くんの過去の話。


「でも、いつも心は満たされなかった。この子だ、っていう確信的な子は、いなかった」

そうか、じゃあ啓吾くんは、

「運命の人をみつけるために、七海学園に来たんだね」

そう言うと、啓吾くんは静かにうなずいた。


「見つかるわけない、って思ってた。でも、いたんだ」

真っ赤な顔の啓吾くん。こんな表情、初めて見た。

もしかして、啓吾くんも、信じてくれていたの?

デステニーの選ぶ、運命の人を。


「愛美ちゃん、初めてあった時も、ニコニコしてたよね。

その笑顔に…ずっと夢中なんだよ」


啓吾くんは、持っていた5本のバラの花束を、私に差し出した。


5本のバラの意味は。




「あなたに出会えて嬉しい」




私の心の中で唱えた言葉と、啓吾くんの声がシンクロした。


「恋なんてしたことないから、この気持ちが本気か分からない。

女の子と遊んでばかりの俺が、愛美ちゃんを愛せるかどうかも分かんない。

だから、愛美ちゃんを突き放した」


啓吾くんの行動は、私を守るためだった。

必死で向き合おうとしてくれていたのに。

私は、自分ばっかりだった。


「でも、これだけは絶対って思ったんだ」

不器用なのは、私だけじゃなかった。

これが、啓吾くんなりの、伝え方。


「あなたに…愛美に出会えて嬉しい」


その瞬間、涙が止まらなかった。

啓吾くんを、思いっきり抱きしめた。


「私も…啓吾くんに出会えて嬉しい」

啓吾くんが抱きしめ返してくれた。

広い背中に手を回す。

大きな手が、私の身体を包んだ。


「あの日、愛美の笑顔に、救われたんだ。愛美に出会えたことが、運命だよ」


うん、うん、と、精一杯の大好きを込めて、うなずく。


「運命の出会い…やっぱりあった」


ありがとう、啓吾くん。

この学び舎で、運命の人(あなた)をみつけました。