「ただいま」

ドアが空いたのに気が付かず、後ろを振り返ったときには驚いた表情で私を見つめる啓吾くんの姿が。

「愛美ちゃん…」


啓吾くんが、私の涙袋を指でなぞるまで、気が付かなかった。

涙を流していたことに。


「…困らせて、ごめん」

枯れそうな声でやっと言ったら、啓吾くんは濁った表情を見せた。


「啓吾くん、好き。私、啓吾くんと、」

「やめて。…1人の子ずっと愛するとか、無理だし」


壊れそうな啓吾くんの顔を見て、私は言葉を詰まらせた。

迷惑なんだ。私の気持ちが。

ごめんね、いつも下手くそで。

伝え方が、いつも啓吾くんを困らせてしまって。


でも、啓吾くん自身の気持ちは、まだ聞いてない。

個人スペースに上がっていく啓吾くんの背中に、叫んだ。


「明日…放課後、中庭で待ってる。啓吾くんの気持ちを…聞かせて」


一瞬足を止めた啓吾くんだけど、そのままこちらを振り向かず、何も言わず、去ってしまった。