花火大会から3日後の今日、奏音が荷物を持って部屋にやって来た。
「ここが奏音の部屋ね」
荷物を置くのに先に自室へと案内すると、奏音が「ひ、広いな」と言いながら部屋に置かれた物を見ていた。
その横顔は好奇心に満ちた表情で、不安そうではないことに少しホッとする。
多少強引だったのは自覚しているけど、やっぱり来てもらった以上は楽しんでもらいたい。
「テーブルもあるんだな。助かる」
「学習机じゃないけどね。
前はここでお兄ちゃんの友達が来てお泊り会してたからある程度物が揃ってたの」
「それでベッドがあるのか」
「うん」
昨日一昨日とリノベーションして部屋は綺麗に片付いた。
椅子はないけどそれなりの住心地にはなっているはずだ。
荷物を置いて一通り観察したあと、三人暮らしを始める上で簡単なルールを教えながら家の中を案内した。
音大生が住む部屋だけあって、楽器関係の物が至るところに置いてあるからだ。
特にお兄ちゃんの部屋は物が多く、不用意に入って何か落して壊れたことがあっては、気を遣って住みに難くなるだろうから口を酸っぱくして注意するように言う。
「まぁ奏音は楽器に馴染みがあるから大丈夫だろうけど」
「つーか、お兄さんの部屋に入らなければ大丈夫だろ。
他人ん家だし、勝手に入ったりしねぇよ」
「うん。でも、あまり気を遣わなくていいからね。
夏休み明けまでいるわけだし、のんびり構えてて」
まぁ、その前に両親と仲直りが出来れば良いけど、家を出てから一週間経っても戻らなかったことを考えると、しばらく戻るつもりはないんだろうな。