翌日。熱を出して学校を休んだ俺のところへ、鮎川さんが宿題プリントを持ってきてくれた。

「ごめんね、梶くん。昨日、うちに傘貸してくれたからだよね?」

 マンションのエントランスのインターフォン越しに、鮎川さんが泣きそうな顔をしているのが見える。

「貸したんじゃないよ。俺が無理やり押しつけただけだから。気にしないで」

 俺がそう言うと、「なに、そのヘリクツ」って言って鮎川さんはちょっとだけ笑ってくれた。

「持ってきてくれたプリント、そこのポストに入れといてくれる?」

「ううん。部屋まで持ってく」

「いいってば。今、親仕事でいなくて受け取れないから、そこ入れといて。鮎川さんに風邪うつしたらマズいし」

「だったらなおさら持ってくって。今日、めっちゃ宿題いっぱい出てるから。早くやらないと、終わんないよ?」

 意外と頑固だなあ。

「……わかったよ」

 俺が渋々オートロックを解除すると、「ありがと」と鮎川さんはにっこり笑った。