会社を出た俺たちは、ずっと黙ったまま駅まで歩いた。

 そして電車を乗り継ぎ、あゆあゆの自宅近くまで来たとき――。

「うち、絶対ヤだからね」

 あゆあゆが、絞り出すように言った。

「え、なんで? 3年間、学園が用意してくれた寮の同じ部屋でずっといっしょにいられるんだよ?」

「だって、さっきの説明聞いたでしょ? 部屋には警報装置がついてるんだよ? そしたら、カジカジにくっつきたいときにくっつけなくなっちゃうじゃん」

「それはそうだけど……」


 正直意外だった。

 あゆあゆなら絶対に「やったね、カジカジ。ずーっとうちらいっしょにいられるね♡」って言うと思ったのに。

 たしかに警報装置は煩わしいかもしれないけど、トップに――社長になるまでの辛抱なのに。


「それにカジカジ……ううん。とにかくうち、絶対にヤだからね!」

 そう言い残すと、あゆあゆは俺を置いて家に向かって走っていってしまった。


 チャンスだと思ったのに。

 セブンオーシャンの社長にさえなれれば、許嫁の話は完全になかったことにできるはず。

 そうしたら俺は、晴れて自由の身になれるのに。