「ねえ。鮎川さんは、一体なにがしたいわけ? 俺を陥れたいの?」

 人通りの少ない理科室前まで鮎川さんを引っ張ってくると、俺は足を止め、鮎川さんの方へと向き直った。

「そんなつもり全然……」

「なくても、そうなってるって。俺と鮎川さんじゃ、住む世界がちがうんだから」


 明るくて、友だちも多くて、SNSでも人気者の鮎川さんと、クラスで浮きまくって友だちもいない俺。

 共通点なんか、なにひとつない。


「あのとき、傘……貸してくれたから。そんな理由だけで……好きになっちゃダメだった?」

「は? なに言って……」

「あーそうなんだ。梶くんまでうちのことバカにするんだ。そんなの……みんなといっしょじゃん!」

 そう叫ぶと、鮎川さんはスカートを翻して駆け出そうとした。

 そんな鮎川さんの腕を無意識のうちにつかむと、自分の方へぐいっと引き寄せる。

「ほんっと君、わけわかんないね」

 気付いたら、俺は鮎川さんをぎゅっと抱きしめていた。