これまでの不安が積もり積もって、本能が『逃げろ』と警告を出し始めた。


……いやいや、逃げないよ

だって、相手は柊哉くんだよ?


そう思うのに無意識に後ずさってしまった私の足元でザリ、と音がした。
それに気づいたその人がハッとこちらに目を向ける。


「……」


顔いっぱいに不安が広がってしまってるだろう私を見てひどく切ない顔をしたその人は、紛れもなく柊哉くんで。

頭の中ではいつもの王子様みたいな柊哉くんと、その柊哉くんから飛び出したとは思えない言葉や悪魔じみた表情がぐるぐる回っている。

冷や汗が止まらない私に、柊哉くんが目を細めて困ったように笑って口をひらいた。


「ごめん」


その人の良さそうな顔は柊哉くんそのものなのに、周囲の怯えた視線は柊哉くんに集まっている。


「俺、巡ちゃんが思うような男じゃないんだ」


それが、これは現実なんだって知らしめてくるようで
息の仕方が分からなくなってヒュッと喉が鳴った。



違う

違う、違う


柊哉くんは誠実で、優しくて、爽やかな王子様で、私の、運命の人で……