結局、今日はどの授業にも集中できなかった。
おじいちゃん、おばあちゃんからあたたかい愛情を受けている夏芽、後輩の女の子に告白されて青春を謳歌している木嶋くん、友達と笑いが絶えないクラスメイト、そして今でも玲のことで立ち直れず、闇の中をさまよっているわたし。
帰りのホームルームが終わり、夏芽から一緒に帰ることを誘われても、「今日は用事がある」とごまかした後に、ふらふらと歩いた。
曲がり角の方を歩くと、向かい側から男の人の姿があり、思わず息を呑んだ。
「嘘……」
思わず顔を歪ませ、後ずさってしまうわたし。
彼も、目を見開いている。
「なんで、またあなたが……」
モリシタ イオリは、わたしの表情を見て不機嫌そうに眉間にしわを寄せた。
「一体なんなんだよ、お前は。俺の顔見りゃ、いっつも怖い顔して、俺が相手してやれば、玲、玲って、あいつにいつまで取り憑かれてるんだ?」
は?
「分かってるだろ? もう、あいつは帰ってこねーんだよ」
わたしは、両拳をギュッと握った。
てのひらには、思いきり爪が食い込んでくるのを感じる。
玲が帰ってこないことなんて、知っている。
だからこそ、だ。
だからこそ、わたしは許せない。
玲の笑顔も幸せも未来も、全てを消してしまったあなたが許せない。
……怒りで、言葉にすらできない自分が悔しくてたまらなかった。
はぁー、と彼はため息をつき、一言だけ言った。
「もういいよ」
「……何が」
やっと、振り絞った声だというのに、どうしてこの一言しか言えないんだろう。
「そんなに久遠寺がいないと気が済まないのであれば、お前も行っちゃえよ!」
指をさした方には、ざぶんざぶんと波が立っている海だった。



