「木嶋先輩、お疲れ様ですー!」
下向き加減で歩いていると、その視界にいきなりスカートがぴょこん、と現れた。
声の主は確認しなくたって分かる。
「直原、お疲れ」
俺と目が合うと分かった直原は、黒目の手前にある、大きく開いていたまぶたをニコッと三日月の形にする。
「木嶋先輩のクラスでやってたロミオとジュリエット、ほんと素晴らしかったです。わたしも来年は、先輩方のようなクオリティ高い劇ができたらいいなぁ」
「あぁ……まぁ、うん……」
それは正直言って、鮎川や百瀬といった、舞台に出てた奴らに言うことな気がする。
「先輩は、そういえば舞台には出てませんでしたよね? 木嶋先輩が出れば、なんだか盛り上がりそうな気がしたのに……」
「俺は……照明当てる係だったから」
「あれって2人だけですよね? 誰なんですか、もう1人は。毛利先輩?」
直原は、コテンと首を傾げながら聞いてくる。
「……なんで分かった?」
「いやー、ただの当てずっぽうですよ。でも当たりだったんですね! あははっ、お二人とも照明の当て方まで完璧でしたね!」
褒めてくれるのは嬉しいんだけど、俺と毛利が照明を当てる係と知ってから、さっきと違って笑顔が嘘くさいな。
「美雪ー、帰ろうよ。遅くなっちゃう!」
後ろの方で、直原を呼ぶ女子の声がした。
「あっ、うん。それじゃあ失礼します、先輩」
「ああ……」
直原の口調も、わずかに元気がないような気がした。



