とうとう、文化祭の当日になった。
いつもの学校の風景とは全然違う。まるで別の世界に来たように、装飾のクオリティーも高い。
わたしと夏芽は後半に仕事があるので、一緒に回ることにした。
「雫、何か食べたいものある?」
食べ物の屋台を見回しながら、夏芽が聞いてくる。
「うーん……。いろいろあって、迷っちゃうなぁ」
「あっ、ねぇ見て」
夏芽が指さしたのは、クレープの屋台だった。
メニュー表を見ると、定番のイチゴやチョコバナナだけではなく、あんこが入った和菓子系やツナマヨといった食事系のもある。
「カラフルフルーツとか雫、好きなんじゃない? だってフルーツタルト大好きだしさー」
「いや、タルトとクレープは全然違うじゃない」
「でも、どっちも小麦粉が入ってるよ」
夏芽の考えが楽観的すぎて笑っちゃうよ。
しかも夏芽、係の人がクレープを焼いているところを見てうずうずしているし。
「っていうか、夏芽、食べたいなら素直に言えばいいのに」
わたしがおちょくると、夏芽はひょうきんに手を挙げた。
「じゃあ食べたいでーす!」
「じゃあって言うのなら、別に食べたくはないのね? それじゃ行こう」
わたしは更におちょくりながら、夏芽の挙げていない方の手を握る。
「うそうそ! ほんとに食べたいです!」
「素直でよろしい」
「その代わり、雫には一口もあげません」
「え?」
「だって雫、食べたいなんて言ってないし」
今度は夏芽がおちょくる番か。
「……わたしも注文します」
「よろしい」
いつの間にか立場が逆転していて、わたしも夏芽も笑いを堪えることができなかった。



