「結構長話しちゃったな」



気がつくと、さっきよりも空は暗くなっていた。
目の前を見ると、オレンジと紺色のグラデーションになっている。



「ごめんね、“ちょっと”って言ったのに。全然“ちょっと”どころじゃなかったね」



眉を下げて、微笑む毛利を見て、俺の心には何かがチクチクと痛むものが入ってきた。



「全然、いいよ。そこは気にしなくて」



「あんまり遅くなると、木嶋くんのお母さんも心配するだろうし」



「俺のことはいいって」



「ありがと。でも、そろそろ帰った方がいいから。また明日、学校でね」



「おう、また明日」



俺が毛利に手を振ると、毛利も俺に手を振り返す。


その後、毛利はくるりと背を向けて姿を少しずつ小さくしていった。


毛利の後ろ姿。

長い黒髪が揺れていて、こっちを振り向くこともない。


俺は毛利の姿が完全に見えなくなるまで、目を離さずにいられなかった。

そうでないと、なぜだか毛利まで本当にいなくなってしまうような気がしたからだ。


見えなくなった後でも、俺の脳にはいつまでも毛利の消えてしまいそうな、切ない微笑みが残ったままだった。