聞き慣れた声が俺を呼び、振り返ると、毛利がさらりと長くて黒い髪の毛をなびかせて立っていた。
「毛利……。体調、大丈夫なのか?」
俺が尋ねると、毛利はビー玉のような瞳をニコッと三日月の形にして、薄いピンク色の唇をキュッと青空に向けた。
「うん、おかげさまで」
「そっか……。にしても、低体温症だったら、まだこんな海のとこ来ちゃ、寒いんじゃねぇの?」
「今日は気温があんまり低くないし、服の下には極暖のヒートテック着てるから、これくらい大丈夫」
確かに毛利の格好を見てみると、コートだけじゃなくて、マフラーも首に巻いているし、下半身にはタイツまで履いてあって、風は通らないようになっている。
けれどそれでも顔は寒いようで、頬は赤く染まっている。
「まずは、あの時、救急車呼んでくれて、本当にありがとう。木嶋くんいなかったら、わたし、きっと今頃もう生きてないと思う」
「いや、いいんだ。俺、逆に毛利にとって不本意なことしちまったんじゃないかって思ってさ……」
だって、毛利を楽になろうとしていたところを俺は自分の勝手な気持ちで妨げたということなんだから。
「ううん。あの時病院で目を覚まして、お母さんやお父さん、夏芽、それから木嶋くんに美雪ちゃん。いろんな人がお見舞い来てくれて、わたしはあの時海に飛び込んだのは間違いだったなって気付いたんだ」



