「ん? 見惚れてるの?」
「先生がかっこいいから見惚れるのは許してください。って、そうではないです。見惚れていたのは本当ですけど」
「本当なんだ」
「…………はい」

 そういえば、先生。屋上で私が選択肢を提示した時、なんで一生は無理って言ったんだろう。私が好きなら、一生一緒にいてくれてもいいのに。

「先生」
「なに?」
「先生は、屋上で私が提示した選択肢、なんであれを選んだんですか? 私の事が好きだと言ってくださったのに、なぜ」
「…………」

 あ、マスクを押し上げて私から目を逸らした、言えない事なのかな。でも、気になる。だって、矛盾しているから。

「…………あれ、お前の家?」
「え、あ、着いた」

 ついてしまった、私の家に。先生とのデートはここまで。

「あの、先生」
「早く行かないと親に怒られるよ?」
「…………はい」

 答えたくないみたい、仕方がないな。これ以上聞いても、多分先生は答えてくれない。諦めよう。

 もしかして、さっきの行動、言葉は嘘だったのか。私の反応を見て楽しんでいただけなのか。

 体が寒い、風がさっきより冷たくなったような気がする。

「それじゃ先生、また学校で」
「…………金糸雀美鈴」
「え、はい」

 だから、何でフルネーム。

「言っておくが。下心のない奴が、無理やり季節の行事を持ってきて、彼女を家に入れ込むような事はしないからな」
「…………へ?」

 え、どういうこと? 下心のない奴は家に彼女を連れ込まないってこと? 

 今私と先生の関係は恋人同士。つまり、カレカノ。
 下心のない奴が、彼女を家に入れこまないって事は、今回先生が私を家に入れたのって……。

「ふっ。体が温まったみたいだな。風邪ひくなよ、金糸雀美鈴」

 手を振って去って行く先生。
 今の私は、相当顔が赤かっただろう。体も、幾分か暑い。

「………………もう!! 本当に、先生は……っ!!!」

 でも、憎めない。だって、私も、先生が好きだから──……