「今日はありがとうございました」
「送るぞ」
「大丈夫です」
「駄目だ、送る」
「いや、本当に大丈夫…………」
「…………そうか。お前は俺といたくないのか。なら仕方がないな、こんなおっさんといたくない気持ちは理解した。このまま黙って部屋に戻っ――――」
「そういうの本当に良くない!!!!!!」
「敬語が抜けてるぞー」

 この先生、私の気持ちをわかっているからそんな事を平然と言う。楽し気に私の頭を撫でないでください。


 先生と外に出て、今は住宅街を歩いている。
 いつの間にか外は暗く、風が冷たいから寒い。春だからと油断してはいけない時期だよなぁ。

「…………サム」
「めっちゃあったかそうですが」

 マフラーに手袋、冬用コート着用で何を言っているんですか。

「ここからお前の家ちけぇの?」
「歩けない距離ではないですよ」
「近くもないと」
「時間的に三十分くらいかなと」
「バイク使えば良かった…………」
「待って? 車じゃなくてバイク? 先生バイク乗れるんですか? 自転車はバイクですが、また違いますよ?」
「お前って本当に俺の事好きなの? 馬鹿にしてない?」
「特に」

 だって、意外過ぎたんだもん。先生のバイク姿…………。

 煙草を吹かせながら、コートを靡かせ道路を走る先生。私の家の前でもしかしたら待ち構えてっ――――

「何鼻血出してるの?」
「なんでもありません」

 いけないけない。これ以上妄想してしまえ、私は止まれないだろう。

「はぁ…………」
「…………」

 先生の横顔、空を見上げる目。今はいつもの、生気の感じない黒い瞳になってる。先生の家にいた時は、もっと輝いていた気がするんだけど。