したくないです。







「ないです、って言われてもなあっちは彼女持ちだからな」

授業が終わったホームルーム後、校舎裏の自販機に紅茶を買いに来た。
1人で行こうとしたらなぜか山田もついて来た。

「でも彼女いたら諦めなきゃいけないって法律もないし」

「…そりゃないけど」

ひゅうっと風が吹くと寒くて体が震えた。
もうこれ以上寒くならないでほしい。

「じゃあ今日はゲーセンでも行くか!アームの壊れたUFOキャッチャーしようぜ!」

「行かないし、しないし」

なんでわざわざここに買いに来てるかと言えば、なんとなく今帰りたくないから。

冬休み前から付き合い始めたってことは、きっと新学期が始まったのをキッカケに一緒に…

今下駄箱に向かったら会ってしまう。

だから1番離れたところに紅茶を買いに来たんだ。

会いたいけど、会いたくないんだもん。

「小西先輩めちゃくちゃ美人だったけどな」

山田が私より先に自販機にお金を入れた。

「そーなんだよ!!勝てると思う?」
 
「無理だろっ」

スパッと言い切ると同時、カフェオレのボタンを押した。

山田にはもう少し気を遣った発言はできないものか…!

カフェオレの中でも甘いミルクたっぷりのを選んでる山田が余計腹立つし!飲めないんだ甘くないと!

…私も飲めないけど!

目を細めて軽く睨みつけた後、無理やり自販機の前から退くよう体を押した。

はぁっと息を吐いてお金を入れる。

「…わかってるから、今の私には無理なんだって」

それにしてもさすが校舎裏、あんまり人が来ないこともあってか廃れてる。

唯一外にあるトイレはおそらく白だったと思われる壁にコケなんだか泥なんだかわからないものがそこら中にへばりついて見るからに怪しげで基本使いたくないし、少しでも陽が沈むと怖くてしょうがない。
 
自販機の隣にベンチはあるけど座る所の木は腐りかけてるし、花壇には何も植えられてないんじゃないかってぐらい花が咲いてるのを見たことがない。

所詮学校の裏だもんね、こんなものかも。

「今のって何だよ?」

山田が眉間にしわを寄せながら、ごくっとカフェオレを飲んだ。

「可能性の話だよ?これから磨いてめちゃくちゃイイ女になったとして」

この時、山田が“無理だろ”とボソッと発言したのは頭の中で消した。

「伊織先輩が振り向いてくれる可能性って極めて低いと思うの。だって小西先輩が存在してるから」

「うん、まぁな。どんだけイイ女になっても小西先輩には勝てないな」
 
今の発言も即抹消した、だから聞いてない。

静かにホットの紅茶のボタンを押した。
 
ガタンと音を立てて出てきた。

「…別れないかな」

本音がこぼれる。

言いたかったけど、言えなかった本音が。

「何言ってんだお前、引くわ!」

「思うのぐらい自由じゃん、思わせてよ!せめて!」

もっと早く自分磨きしとけばよかった。

後悔しないぐらい一生懸命に。

伊織先輩を振り向かせることが出来るぐらいイイ女に。


そしたら私にも可能性あったのかなー…。


私が小西先輩のポジションに立つことは出来たのかな?