最初で最後の片想い

目が覚めた。
目覚ましが鳴る前だった。
あの子の名前は、聞けなかった。
あの頃みたいに静かに流れてきた涙をそっと拭って、たまには私が朝食を作ろうと階段を降りた。
何作ろうかな。朝だし、消化がいいものがいいかな。
スマホを開くと、時間と共に出てくる曜日。
5時37分 6月23日 土曜日
なんだ、今日お休みだったのか。
もうひと寝入りしようかな。
階段の手すりに手を添えると、ガチャっと音がした。
「あれ、百笑?」
「おはよう」
「もしかして泣いた?昨日のこと思い出しちゃった?」
慌てて駆け寄ってくれる楽くんにキュンとした。こんなの初めてだ。
「楽くんて、前にも私の事助けてくれた人?」
気付いたら聞いていた。口から、心から溢れてしまった。
「ごめん、今のなし。ごめん」
「いや、いいよ」
そう笑うと、階段に腰掛けた。
つられるように私も座る。
「滑り台で遊んでたらさ、砂場でいじめられてる子がいたんだよ」
「え」
それって、やっぱり私……?
「トンネルも崩されて、突き飛ばされてて、早く助けに行かなきゃって。あの時初めて叩かれた」
やっぱりあのとき、叩かれてたんだ。
「ごめん、痛かったよね」
「大丈夫だよ。それでそのときに、この子をずっと守りたいって思った。俺がそばにいたいって」
並べられる言葉はまるでプロポーズみたいで、あの頃の話なのにドキドキと心臓が早鐘を打つ音が聞こえる。
「でも名前を教えるのも忘れて、そのまま隣町に引越しちゃってさ。ここで紗倉百笑って自己紹介されてびっくりした」
……覚えてたんだ、あの子も。楽くんも。
「今思えばあのときからこの恋は始まってた。いつも百笑のこと思い出して、元気かな、会いたいなって思ってた」
「私も、ずっと会いたかったの。あの子に。助けてくれたスーパーヒーローくんに」
「百笑、俺と結婚を前提に付き合ってくれませんか?」
楽くんは私の手を取って言った。
目を見て、心を込めて。
だから、私も。
「はい。よろしくお願いします」
私のスーパーヒーローは、後にも先にも彼だけらしい。
これが最初で最後の、私の片想い。