最初で最後の片想い

トントンと肩を叩かれた。
なんだろうと振り返ると、学ランを着た見知らぬ男子高校生が2人。
「すみません、ちょっといいですか?」
「はい」
つい、そう返してしまったのが間違いだった。
「可愛いですね。ちょっと俺らと遊びません?」
……ナンパ?
こんなことあるんだな、なんて呑気に考えていた。
ごめんなさいと言えば素直に帰してくれるものだと思っていた。
「すみません、帰るので」
そう2人を避けようとすると、グッと腕を掴まれた。
「ノリ悪いなー。いいじゃんちょっとぐらい」
強く引かれる腕を振り払えない。
怖いが大半を占めている頭の中のほんの少しの冷静な部分で、どうしたら話してくれるかを必死で考える。
引っ張られる腕。それとは反対側に行きたい私の身体。
少しでも余裕を持たせたくて、街灯の少ない道を選んだのが間違いだったと今気づく。
考えて考えて、やっと効果のありそうな言葉が思いついた。
「やめてください、警察に言いますよ」
これが、私の中で彼らが私を置いて逃げる一番効果的な言葉だと思った。
「生意気だな。ちょっと可愛いからって調子乗んなよお前」
見事に外れた。離してくれるどころか怒りを買ってしまった。
ムカつく。その4文字が耳に入ったかと思うと、私は突き飛ばされていた。
「痛っ」
灯りのない路地裏。どんどん近づいてくる2人から逃げるように後ろへと下がる。
「っ……」
やめて、助けて。
頭の中では言えるのに、口には出せない。
パクパクと動かして吐息が漏れるだけだ。
ただ近づいてくる彼らから逃げることしか出来ない。
助けて、助けて楽くんっ……!
怖いよ。怖い、怖い。
仰向け状態で逃げる私より、二足歩行で歩く彼らのが早い。
私の目に路地裏の出口であろう光が目に入ったときには、もう彼らは目の前に迫っていた。
楽くん助けて、お願い……!
ぐっと目を瞑って強く願うと、目の前に光が差し込んだ。
「百笑っ!!」
私を呼ぶその声は、なんかあったら連絡してと言ってくれた声と同じだった。
「ら、くくん……?」
「ごめん、遅くなってごめん」
楽くんは私をぎゅっと抱きしめてくれた。
「俺空手やってて結構強いけどどうする?逃げるなら今のうちだけど」
楽くんが言うと、やべー、行くぞ、と聞こえてきたかと思うと、バタバタと足音が遠くなっていった。
「あっちの公園行こう」
ゆっくり立たせてくれて、公園までおんぶして連れていってくれる。
「楽くん、なんで……」
もう門限から2時間も過ぎていた。
それなのに、なんで。
「帰ってこないし連絡も取れないから学園長に話したんだよ。今一緒に探してくれてる」
ちょっと電話するねとブランコを立った。
余韻で揺れるブランコが、幼い頃と重なる。
あの頃、彼が立ち漕ぎしたあとのブランコもこうやって優しく揺れていた。
「今からこっち向かうって。その間に手洗おっか」
手?
不思議に思って自分の手を見てみると、血が出ていたり傷になっていたりした。
逃げることに必死で、全然痛みに気づかなかった。
手を洗っていると頬に冷たい感覚がした。
隣を見ると、濡らしたハンカチを当ててくれていた。
「楽くんって空手やってたんだね」
「あー、あれ嘘。ごめん」
ほんとに出来たらかっこいいんだけどね、と笑うけど、私はもう十分かっこいいと思う。
「鉄棒とか出来ないし。公園でできるのは昔から立ち漕ぎくらいなんだよな」
「え、立ち漕ぎ……?」
もしかして……と思う反面、立ち漕ぎできる人なんてこの世に何人もいると言う現実も頭に浮かぶ。
「うん」
楽くんって、もしかして。
聞くか聞かないか悩んでいると、紗倉さん!と聞き覚えのある声が聞こえる。
振り返ると学園長が不安と安心を混ぜたような顔で走ってきた。
「無事で良かった……」
そう抱きしめられた腕は、お母さんのみたいに温かかった。