1人で砂場で遊んでいたら自分より少し体格が大きい男の子たちに突き飛ばされた。
「ここはぼくたちのあそびばだぞ」
「きったねー」
砂で作った大きなトンネルも、頑張って作ったのに一撃です踏み潰された。
「はやくどけよ」
「じゃまなんだよ!」
そう言って私に手を振り上げる。
幼いながらに叩かれると身構えた。
パチン!
痛……くない……?
恐る恐る目を開けると、目の前に同い年位の男の子が私の前に立っていた。
「おんなのこをいじめるな!」
震える声で男の子たちに言い放ったあと、私の方を向いた。
太陽の光でキラキラしていた。かっこいい。
「あっちのブランコいこうよ!ぼくね、たちこぎできるんだ!」
見せてあげる!と私の手を取ってブランコへと一直線。
スーパーヒーロー。
彼は私の初恋の相手だ。
「おなまえは?」
「もえ。さくらもえ」
「もえちゃんかぁ。ぼくはね、」
……ピピ……ピピピピ……
目が覚めた。
また、あの夢を見た。
忘れられない彼の夢。幼い頃から片想いをしている、名前も分からない彼の夢。
「起きなきゃ。学校……」
重い身体を起こして階段を降りる。
「おはよう。百笑もトーストでいい?」
「うん。ありがとう」
家族みたいな会話。
なのにこの会話をしているのは同級生。
私が入学したこの高校・七海学園は、デステニーで選ばれた異性と共同生活を送る特殊な学校。
本当は、スーパーヒーローの彼に会えるかもと少し、いや、結構期待して入学した。
だけどもう半年。それらしい人も居ないし、あの時だけの縁だったみたい。
「夜は私が作るね」
「ありがとう」
同室の小日向楽くん。
彼は料理が上手い。女子力高めの男の子。
毎朝私の分も朝ごはんを作ってくれて、寝坊しそうになったら戸を叩いて起こしてくれる。
優しい人。まるでお母さんみたい。
「どうしたの?」
体調悪い?と私の顔を覗き込む。
学園長たちからたまに課されるゲームでそれなりに距離を縮めた私たちは、同時進行でそれなりの関係性みたいなのが生まれていた。
「懐かしい夢、見たんだ」
「へぇ、どんな?」
こんなことでさえ軽く触れる程度だけど話せてしまうくらいに。
でもそれはきっと客観的に見ると親子……は流石に言い過ぎだけど、まぁ兄妹みたいで、彼氏彼女とか、そういう風には見えないと思う。
でも実際、この部屋に入ると恋人というより血の繋がった家族みたいなもんだし。
要するに、結婚科には不向きなペアだ。
「ごちそうさまでした」
「あ、俺洗うから百笑は準備してきな」
どこまで出来た男なんだ。本当は甘えたいところだけどグッと我慢する。
いつもやって貰ってばかりだ。申し訳ない。
「悪いよ、私洗う」
「俺洗い物好きだから。夜おまかせしちゃうしいいよ、任せて」
「うぅぅ」
優しさについ悶えてしまう。
どうする、どうする私。
お皿ちょうだい、と言わんばかりにこちらに手を伸ばす楽くん。
「お願いします……」
「お願いされます。準備しておいで」
「ありがとう」
私なんかには勿体ないよ、この人。
絶対彼女デロデロに甘やかすタイプだよ。
他にもっと可愛い子とかいるし、本当に超正確なの?この学校のマッチングシステムって。
だって仮に恋人同士になったとして、彼には私よりお似合いの人がいると心から思うだろう。心から、強く。今よりも。
「楽くん、今夜何食べたい?」
「んー、オムライスかな」
何気ない会話をしながら、私たちは今日も学校へ向かう。