――魔法の呪文が唱えられたのだと思う。



あんなに怖かったのに、私は何一つ抵抗することなく、素直に彼の言葉に従っていた。

彼の手が私の頬に触れたとき、ほんの少しだけ体が硬直したけれど、そのあとは大丈夫だった。



額、鼻、まぶた、唇…。


シルクのような感触。

すべてが心地よい。




よく見えない目だから、私は五感のうちの四つを駆使して目の前で繰り広げられる彼の魔法をはっきり感じ取れのだと思う。



それはほんのひとときだったようにも思えたけれど、いつの間にか西日が部屋に差し込んでいた。



「これでよし、と」

大きな刷毛を手のひらで転がしながら、彼は小さなため息を漏らした。

「おっと。アヤちゃん、自分の顔見えないんだよね」

私はこくりとうなずく。

「せっかくだからフィルターを通さないで本当の君をみてほしいんだ」

そう言うと、彼は一瞬で私の目の中に何かを滑り込ませた。