「や…」

恐怖がこみあげてきた。

これから自分の身に起こりうることがなだれのように頭の中に押し寄せてきて、私は自分を見失ってしまっていた。


「大丈夫だよ」

すっかり狼狽した様子に気づいた彼は、向かいの席から立ち上がり、ゆっくりと私の隣に腰を下ろした。

震える私の手は彼の両手に挟みこまれる。

「怖いことなんか何にもしないから…ね」

彼の手がゆっくりと私の手をこすりあわせる。

決して強くない、優しい力。

あんなに怯えていた私なのに、それがまるで嘘のよう。

すっかり落ち着いてしまっていた。



その手には不思議な力があるのだと思う。

さっき手をつながれたときも感じたのだけれど、その手から癒しの気が伝わってくる。

だから触れられたものはすっかり彼に心をゆだねてしまう。