「沢木さん、もう帰って」

「え?」

「鏡見てみなよ。君、アイラッシュとれちゃってるし、涙と鼻水で顔ぐしゃぐしゃだし」

「あ…」

今さらながら赤面する私。

「とにかくさ、帰って。今の君とセックスする気になんかなれないよ」

くっ、くっと笑いながら麻生くんは背を向けてしまった。

言われるままドアノブに手をかけると、再び彼の声が背中に降り注いだ。

「嬉しかった、沢木さん。もしもあのとき、今の君のようにすべてを吐き出せたら、きっと僕の人生は変わっていたと思う」

私はなんだか恥ずかしくて小さく返事する。

「今からでも遅くないよ、麻生くん」

麻生くんの顔を見ることはできなかったけど、このときの彼はきっと光り輝いていたに違いない。

「沢木さん、かっこよかったよ。最近きれいになったって思ってたけど、今日の君は今まで最高に素敵だった」