「いやだ。私はちゃんと好きになりたい。その人のことを思って胸が苦しくなるような、そんな恋をしたい。セックスとかそういうのは私にはまだよくわからないけど、麻生君には大事なものが抜け落ちていると思う。狂っているとか、血のせいだとか、昔いろいろあったのかもしれないけれど、それでもそれを乗り越えなくちゃ幸せになんかなれないよ」

言葉が止まらない。

いくらでも溢れ出て、私の意志では止めることができない。

「ねえ、麻生くん。麻生くんは死んだらだめだよ。死んだらもうそれで終わりだよ。でも、だからといってお父さんとおんなじ闇にはまるしかないだなんて、どうしてそんなふうにしか思えないの。麻生くんは、麻生くんらしく、たくさん恋をして、たくさん楽しい思いをして、たくさん幸せにならなくちゃだめなんだよ。だめなんだよ…」

涙も次から次へと流れて、もうどうしようもなかった。

私は涙と鼻水でぐちゃぐちゃのみっともない顔で、狂っていてもかっこいい麻生くんに必死に訴えた。



私は麻生くんにお説教しながら、自分自身の中の靄が晴れていく気がしていた。


「沢木さん…」


私の豹変振りにたじろいだ麻生君だったけど、やがてくすっと小さく笑った。