【完】大人の世界~甘美な毒に魅せられて~

傷が深くないことにほっとはしたものの、白く浮き上がる無数の直線に彼の心の中の闇を見た気がした。

出血は止まっているものの、救急車を呼ぶべきだろうか。

大騒ぎにしてしまっていいのだろうか。

思いあぐねていると麻生くんの小さな声が聞こえてきた。



「沢木さん…」


紫色の唇がかすかに震える。


「麻生くん、今、救急車呼ぼうか。それともお母さんを呼ぶ?」

すると、どこにそんな力が残っているのか、彼は私にしがみついてきた。


「お願い。誰も呼ばないで。僕は大丈夫だから…。僕が悪いんだから…。お母さんは悪くないんだから…」


麻生君は泣きじゃくっていた。

まるで小さな子どものように。