【完】大人の世界~甘美な毒に魅せられて~

「あの人は、車が好きだったの。整備士の資格も持っていたし、車に詳しかったの。だから仕事がないといつもガレージにこもって、愛車に手を入れていたわ」

かちゃんと小さな音を立てて、カップがソーサーに置かれる。

彼女は何かを思い出そうとするかのように、少しだけ目を細めた。

「マコも車が好きでね、よく父親のあとをついてまわっていたわ。ソファーに並んで車の雑誌を読んでいたし、まだ小学生だったけど、おかげで大人顔負けに車のことは詳しくてね」

「麻生くん、お父さんのこと大好きだったんですね」

こみ上げてくるものがあったのだろう。

彼女の瞳からはらはらと涙が零れ落ちた。

「やだ、ごめんなさい。昔のことなのにね…」