混雑した小児科の空気はより一層湿気を帯び重たく感じた。
苦手な待合室。
先程から目の前を女の子がうろちょろ。
一歳くらい。
今にも転けそうな足取りで向かいのソファーに辿り着いた。と、そこに腰掛けていた男の子を指差し何やら騒ぎ始めた。が、聞き取れない。そればかりか、眼には涙を浮かべている。やばい。泣きそうだ。何が何だか分からぬ男の子は狼狽するばかり。同じく、隣に居た男子の母親も困り顔だ。
そこへ、女の子の母親が近付いて来た。静かに、娘の言葉に耳を傾けている。この時期の、他人からすれば宇宙語も、母親にだけは確実に伝わるから不思議である。
程無く、
「あ~そっか。お友達が痛いのが可哀想なんだね?」と母親が言った途端、女の子はわあっと泣き出してしまった。
なるほど、よく見ると男の子の腕には小さな絆創膏が貼られてある。注射をしたばかりの跡。その痕跡に、彼女は他人の痛みを我が事の様に感じ、想像し、泣いていたのだ。
「心配してくれて有難うね。」
と言う男子の母親の声が上ずっている。
どうやら、貰い泣きの御様子。
女の子は、母親の胸に顔を埋めて泣き続けるばかり。
「やあねえ。大丈夫なんだよ~。」と言いながら娘の背中を擦る母親もやはり貰い泣き。

私は、貰わなかった。が、鼻っ柱がぐわっと熱くなった。