クリスマスの夜でした。

 ジェニファーは、ママのことを考えると眠れなくて、ベッドの中から窓に降る雪を見つめていました。

 窓から差し込むやわらかな外灯が、悲しげなジェニファーの顔を映していました。

 そのときです。暖炉のほうから何か声がしました。

 ジェニファーはベッドから出ると、暖炉のそばに行きました。

 すると、

「いてててて……」

 と、暖炉の中からまた聞こえました。

 でも、だれもいません。

「あ~、痛かった」

 今度は、ジェニファーの近くから声がしました。

 ジェニファーは声がした足元に顔を近づけると、やっと、それを見つけました。

 アイボリーのカーペットの上に、腰をさすっているイチゴ大のサンタがいました。

「煙突から落っこってしまったわい」

「あなたは、だ~れ?」

 ジェニファーは腹ばいになると、頬杖をついて訊きました。

「見てのとおりのサンタじゃ。ちっとばっかり小さいがな」

「どうして、ちっちゃいの?」

「話せば長くなる。そんな暇はないんじゃ。名前は?」

 サンタはノートとペンを出しながら訊きました。

「ジェニファー」

「うむ……いい名前じゃ。……3番地じゃったな。ちゃんとメモらんと、ボスに叱られるからな。で、何が欲しい? 次の子どもが待っとるんじゃ。さあ、欲しいものを言って」

「……ないわ」

「なぬぅ? ない? 欲しいものがないと言うのか?」

「ええ。ないわ」

「欲しいものがない子どもなんておらん。オモチャとか人形とか、なんかあるじゃろ?」

「だって、なんでももってるもん」

「うひゃー、かわいげのない子じゃ。じゃ、何か夢とか望みはあるじゃろ?」

「おねがいごとはあるわ」

「なんじゃ?」

「……ママにあいたいの」

 ジェニファーは寂しそうにうつむきました。

「どこにいるんじゃ?」

「とおいところにあるびょういん」

「やれやれ。子どもの望みを1つかなえてやらんと、ボスにこっぴどく叱られるからな。仕方ない、そこにつれて行くよ」

「エッ! ほんと?」

 ジェニファーは目を輝かせました。

「ほらほら、コートを着て。急いで」

 ジェニファーは急いで赤いコートを着ると、白い毛糸の帽子を被り、ファーのついたブーツを履いて、白いミトンをしました。

「では、行くよ。目を閉じて、5つ数えて」

 ジェニファーは目を閉じると、

「ワン、ツー、スリー……」

 と、数えました。




 すると、あっという間に、トナカイが2頭いるソリの中に座っていました。

 あたりを見回すと、ソリは大きな赤いものの上に載っていました。

 白い綿帽子がその上に落ちています。

 それは、雪でした。

 ジェニファーはいつの間にか小さくなっていたのです。

「さぁて、行くよ。しっかりつかまって。レッツゴー!」

 トナカイの首につけた大きな鈴の音が響くと、ソリはみるみる上がって行きました。

「わぁ~」

 ソリから見下ろすと、さっきの赤いのは、テラスにある鉢植えのポインセチアでした。

 街灯の光が、まるで惑星のように見えます。

 ジェニファーのおうちがみるみる小さくなっていきます。

「どうじゃ、ソリの乗り心地は?」

「ソファーじゃないから、ちょっとかたいけど、わるくないわ」

「ま、客を乗せるのは初めてじゃから、要望は何かとあるじゃろが、ちょっとだけ我慢しておくれ」

「うん、がまんする」

「長旅じゃから、わしが小さくなったわけを教えてやるよ」

「うん」

「あれは、わしがジェニファーと同じぐらいの歳じゃった。

 クリスマスの日、ベッドに靴下をさげると、サンタのプレゼントを待っとった。

 すると、ドアが開いた。

 絶対に見ちゃいけないよ、ってパパに言われとった。だが、わしはサンタを信じとらんかった。パパがプレゼントを入れてると思っとった。だから、見てしまった。

 ところが、そこにいたのは、サンタの格好をした知らないおじさんじゃった。オーラのような光がサンタを包んどった。わしがビックリして目を見開いていると、

『見てしまったか……。サンタを信じない子どもはこうしてやる』

 サンタはそう言って、白くて長いあごひげを何度か揉んだ。途端、わしは小さくなっとった。

 大男のサンタを見上げて、

『たすけてーっ!』

 て、叫んだが、身長は伸びんかった。

『どうだ、元に戻りたいか?』

『うん、もどりたい』

『では、戻るための修行をしよう。まず、サンタが本当にいることを信じることじゃ』

『うん』

『そして、わしのそばで1億年間修行する』

『……いちおくねん?』

『心配するな、1億年は人間の世界では1年くらいじゃから。それに、その間は時間が止まるから、1年後は、クリスマスのこの場面に戻れる。

 何をするかと言うと、サンタになって、地球の子どもたちにプレゼントを運ぶんじゃ。そして、子どもたちに夢と希望を与えるんじゃ。

 おまえのように、サンタを信じない子どもたちに、素直さや純粋さを忘れないように教えてやるんじゃ。分かったな?』

『……はい』

『じゃ、サンタに変身じゃ』

 本物のサンタがまた、ひげを揉むと、あっという間にわしはご覧のとおりのじいちゃんサンタになってしまったってわけさ」

「ふ~ん」

「ふ~ん、て驚かんのか?」

「だって、いちねんしたら、もとにもどるんでしょ? そしたら、しょうがっこうにまにあうでしょ? ほんとうのサンタさんは、ちゃんとかんがえてるのよ」

「うひゃー、かわいくない」




 ――ソリはたくさんの山や街を越え、もうすぐママのいる病院に着きます。

「あっ、みて。あのあかりがついてるおへやよ」

 ジェニファーは、病院の窓の明かりに指をさしました。

「やっと着いたか。夜明けまでには次んちに行かんと、修行期間が延びるかも知れん。さあ、ドアの下から入ったら、目を閉じて5つ数えるんじゃ。そしたら、元の大きさに戻るから」

「うん」

 ジェニファーは、駆け足でママの病室に忍び込みました。



 サンタは時間を気にしながら、待合室の椅子の下でジェニファーを待っていました。

 間もなくして、大きくなっているジェニファーが笑顔でやって来ました。

「ほら、椅子に隠れて。また、目を閉じて5つ数えて」

「うん。ワン、ツー、スリー……」




 また小さくなったジェニファーは、ソリに座っていました。

「どうじゃった? ママは」

「はるになったら、おうちにかえれるんだって。みて、ママがつくってくれたかみかざりよ」

 ジェニファーはコートのポケットから、ビーズのバレッタを出して見せました。

「おお、キレイじゃ。よかったのぅ」

「うん」

 ジェニファーはうれしそうに、小さな前歯をのぞかせました。

「……サンタさん、ありがとう」

「なーに、ジェニファーの願いをかなえてあげられて、わしもうれしいよ。さぁて、超特急で帰るぞ。次の子が目を覚ます前にプレゼントをやらんとな――」

「ボスにこっぴどくしかられるんでしょ?」

「そのとおり。……なぬぅ? ハッハッハッハ!」

「うっふっふ……」

 朝日が遠くの山を染めていました。



 目を覚ますと、ジェニファーはベッドにいました。

 ……ゆめをみてたの? ……アッ!

 ジェニファーは思い出したようにベッドから飛び降りると、ハンガーラックにかかったコートのポケットに手を入れました。


 ママからもらったバレッタがありました。夢ではありませんでした。

「……サンタさん、ママにあわせてくれてありがとう」



 ジェニファーは、ちっちゃなサンタさんから、大きな愛をプレゼントされました。






 おわり