まだ陽も落ちていない夕方の五時過ぎ、空いた時間に宗ちゃんが帰ってきてくれた。わたしが食べられそうなフルーツにゼリー、あれやこれを手土産に。

「生真面目が悪いとは言わないが、今は体が一番大事な時だろう」

わたしの様子は広くんから逐一報告されていて、度重なる欠勤を気にしていたのも筒抜けだ。ベッドの縁に腰を下ろした宗ちゃんは、少し横になっていたわたしの髪を優しく撫でる。

ライトグレーの三つ揃いにダークカラーのシャツを合わせ、髪をワックスで乱れなく整えてるせいか雰囲気がシャープで、今日は一段と男らしい。

「薫が気に病むと、歓迎されてないのかと腹の子が悲しむぞ」

途端、ぽろりと目から鱗が落ちた。

ああそうだ。この子が、生まれてくる世界に怯えずちゃんと愛せるように、わたしが安らかなゆりかごでいなくちゃ。

「・・・宗ちゃんてすごい」

「何がだ」

「わたしを一瞬で元気にする魔法が使えて」

「どうだかな」

淡い笑みが微かに翳ったように見えた。

「薫」

静かな眼差しに音もなく貫かれる。

「式は七月八日に決まった。しばらく来られないが、落ち着くまでだ。俺を待っていられるな?」

来月。あとひと月もない。とうとう来る。

宗ちゃんを独り占めできた夢のような時間が、もうすぐ終わる。