「お先に失礼します」

終業時間は夕方の五時半。いそいそ制服から着替えると、すれ違う相手がどこの誰でも『お疲れ様でした』と声をかけ、敷地の隅の駐車場へ足早に。クリーム色のボディにサイドミラーだけ赤の軽自動車がわたしの愛車だ。

帰りがてらスーパーに寄り道をする。お菓子作り関連のコーナーはもう、バレンタインのポップが賑やかだった。

宗ちゃんに今年はなにを贈ろう。頭を掠めた。甘い系は食べないからやっぱりお酒か、高級珍味とか。豆腐としらたきを買い物カゴに入れながら。今夜はすき焼き風鍋、野菜多めで肉はもちろん豚の薄切り。

野菜売り場の一角に切り花のコーナーがあった。クリスマスの時季はポインセチアの鉢が並んでいた。宗ちゃんもわたしの誕生日には花束を欠かさない。

それでという訳じゃないけど社会人になってから、バレンタインは叶うかぎり薔薇を一輪そえて宗ちゃんへ手渡す。去年は白薔薇、その前は深紅。

飾り気がないあのリビングにオブジェみたいな一輪挿しが置かれていて。薔薇以外、差してあるのを見たことはなかった。

わたしにだけ許されているようで純粋に嬉しかった。